「不登校」を医療としてサポートするとは 中編|おひさま 子ども・ファミリークリニック|神戸芸術センターの小児科・児童精神科

〒651-0055 兵庫県神戸市中央区熊内橋通7-1-13
神戸芸術センター4F医療モール
078-855-3410
WEB予約 WEB問診
ヘッダー画像

ブログ

「不登校」を医療としてサポートするとは 中編|おひさま 子ども・ファミリークリニック|神戸芸術センターの小児科・児童精神科

「不登校」を医療としてサポートするとは 中編

当クリニックの不登校状態にあるお子さんへの治療の原則的な考え方は、前編にまとめていますのでまだ読んでおられない方は先に目を通していただけるとより理解しやすくなると思います。

 

では、熊本大学発達小児科(現在は小児科と合併しています)から兵庫県立リハビリテーション中央病院子どもの睡眠と発達医療センター、そして当クリニックへと受け継がれている、三池輝久流 不登校小児科治療の流儀を紹介したいと思います。

基本的な考え方はとてもシンプルです。

  1. 日中に活動できるような睡眠覚醒リズムを取り戻すように治療する
  2. 学校生活に戻るときに、学校で一番多い授業時間でのストレスを減らすために、自宅学習等をして備える
  3. 他人の目線が怖い場合には、不安に関する治療を行う

以上の3ステップが治療方針になります。

ステップ2の学習補填については、医療機関ではなく学校や塾、家庭教師など教育領域の課題ではあるので、私たちだけで完結できない点ではありますが、様々なお子さんの支援をしてきましたので、ご提案できるものもあるかと思います。

それでは、医療機関の出番であるステップ1と3について説明します。

 

ステップ1の睡眠覚醒リズムを取り戻す治療には、体内時計の調整、日中活動へのモチベーションが重要だと思っています。

体内時計調整のために、今の身体では何時間睡眠を必要としているかを最初に調べます。

そのためには、自然に寝て自然に目が覚める状態で2週間ほど過ごしてもらって、その睡眠の状態を睡眠日誌に記録してもらうことになります。

クリニックを受診している段階ですでに学校に行けていない状況が続ている中で、のんきに2週間も自由に寝起きさせるなど不安でしようがないと感じるご家族がほとんどだと思います。

しかし、本人の身体の状況を把握しなければ、治療方針がはっきりしないこともあり、ご理解いただきたいところです。

もちろん高校生や大学生など、出席によって単位認定の問題がある場合は週末だけ試すことや一番近い長期休暇の時に試すなど、次善の策で対応することもあります。

2週間の睡眠日誌から平均睡眠時間が決まりましたら、登校するために何時に起きなければならない時刻から平均睡眠時間をさかのぼった時刻が目標入眠時刻として決まります。

あとは、その時刻に向けて眠れるように内服治療や睡眠衛生指導で助言を行うことになります。

はじめのうちは平均睡眠時間が10時間を超えることも珍しくありません。

また、2~3時にしか眠れないお子さんに目標入眠時刻21時を設定したとして、仮に内服治療をしても、急に早く眠れるはずがないことも往々にしてあります。

1時間入眠時刻を変えていくのに、最低でも1か月かかると思ってください。

もし6時間前倒しする必要があるならば、最低でも半年はかかると覚悟する必要があります。

もし、不登校になるきっかけとして勉強を頑張る、部活を頑張るなどで睡眠不足が続いていた場合には、睡眠不足があった期間以上に回復する時間がかかることが多いことも想定する必要があります。

学校生活が破綻する直前で余裕がない、そういう状況で来院されることが多いことはよくわかっていますが、現実として治療にこれだけの時間が必要になることを前提に、学校との相談や回復後の学校生活をどうするのか並行して検討していくしかありません。

まじめな子ほど、がんばりすぎてリズムを崩して、体調も悪化して、学校に行けなくなる状況に遭遇します。

学校に所属し続けるのか、転校するのか、高校生以上であれば一旦学習の場面から離れるのか、については簡単に答えの出る問題ではありませんので、個別に相談しながら、現実的な対応を考えていくことになります。

 

リズムを整えるためには、日中に日光を浴びたり運動し、規則正しい食事を摂った上で、メラトニンを服用するのが一番です。

メラトニンは海外から個人輸入して使用することになりますので、取り寄せるのに時間が必要です。

効果としてはメラトニンより弱くなる印象が強いのですが、メラトニンのふりをするラメルテオン(成分名)というお薬もあります。

ストレスを強く感じたり、リラックスするのが元々下手なお子さんの場合、緊張をとるためにクロニジン(成分名)を用います。

クロニジンは降圧剤でしたが、休めという信号を司っている副交感神経の働きを高めるために、自然な睡眠のきっかけになります。

また、緊張の強さで入眠が難しい場合、リスペリドン(成分名)やアリピプラゾール(成分名)といった脳の興奮を納める働きをするお薬を使うこともあります。

これらの内服で睡眠がスムーズにできない場合、次善の策として睡眠導入剤を用いることもあります。

睡眠導入剤ではないものの、抗うつ剤の中に不眠を改善する作用があるもの(NaSSA、三環系抗うつ剤、四環系抗うつ剤など)がありますので、そちらを使うこともあります。

このような西洋薬だけではなく、本人の状態に合わせて、緊張が強い場合には抑肝散、エネルギーがない状態(虚証)であれば黄耆建中湯や補剤と呼ばれる種類の漢方などを使うこともあります。

内服する時間は、眠りたい時間の1時間ほど前に設定することが多いのですが、いきなり目標入眠時刻の1時間前に内服しても、身体が早い時間に眠ることに反応してくれないので、今までの入眠時刻から1カ月で1時間ずつ早めていき、変わらなくなったらしばらくその時刻で維持。しばらくして目覚めやすくなったら、再び1時間ずつ早めて目標時刻まで近づけていくことを根気強く続けていきます。

 

こういった治療を続ける中で、なかなか入眠時刻が変わりにくくなる時期もあります。

体内時計の調整が一時的に難航する場合もありますし、スマホやゲーム、Youtubeなどで寝てくれない場合もあります。

後者の場合、本人の心構えの問題として説得(説教?)してしまいがちですが、必ずしもそれが正解だとは思えない経験を沢山してきました。

睡眠のリズムが整うと、いずれ日中の活動をするということに向き合わなければならないわけです。

その事態が現実味を帯びてきたときに、日中の活動へモチベーションを持てていないことが背景となって、これ以上睡眠が好転することへの防衛的な反応として良くなる努力をしなくなる事例が多々ありました。

大人の理論としては、「みんなやりたくないことにも我慢して向き合い、生活リズムを整えて頑張っているのだから、あなたも成長するためにはわがままを言ってはいけない」と考えてしまいます。

その考え方自体を否定するつもりはありません。

しかし、学校での対人関係がトラウマになっていたらどうでしょう?

無理やりにでも向き合って乗り越えられることもありますが、がっつり完成したトラウマの場合、本能的な回避行動になっているので無理やりにでも暴露し続けても乗り越えることはできません。

むしろ、自分を切り離して人ごとのようにして乗り越える「解離」という状態で生きていくやり方を身に着けてしまい、その後の人生のどこかで体調をくずして一生引きずってしまう罠を残してしまうリスクがあります。

発達障がいなどの特性があり、集団活動でどのようにふるまえばよいかわからないお子さんもいます。

単純に集団に入ってしまえば何とかなるわけではないこともしばしばあります。

何回かは適応しているようにふるまうことはできるものの、その後、やっぱり行けない場合は、本質的に集団の中でのふるまい方がわかりにくい、あるいは気を使いすぎて継続できない、トラウマを抱えているなどのお子さんであることを考慮すべきです。

トラウマ状態や、発達特性があることで集団適応が難しい状況は、「右腕がついているものの、事故で神経だけが損傷したために完全麻痺になっている」状態に例えることができるでしょう。

リハビリをしてもすぐに回復の見込みがない状態の自分に、「見た目に骨折などの問題のない右腕があるんだから動かそうとすれば動くはず、やればできる」と言われ続けている状況を想像してみてください。

いつ終わるとも知れないプレッシャーとできない自分へのいらだち、周囲への怒り、終わりのない絶望。

そのようなときに行うべきは、出せるはずのない短期的な成果を強要することではなく、今はほかの手段で補い、自分らしく生きる道=自分の得意を生かした生き方を一緒に探してあげることではないでしょうか?

こういった背景で睡眠覚醒リズムの改善が停滞した場合、そのお子さんなりの工夫=目標設定が必要になるので、その詳細を一般論としては書けませんが、そこに、私たち児童精神科医や心理専門職の出番があると思っています。

いろいろ書きましたが、日中活動するモチベーションがもてないために睡眠覚醒リズムの調整が停滞しているときに、本人の心構えの問題と断罪するのではなく、どうやったら「起きて活動したいと思える」のか、いろんな角度から検討することが必要な場合があることを知って頂けたらと思っています。

発達に特性があるお子さんが集団に合わせるのが苦手な理由や、頑張ることを回避しようとする理由については、以前のブログ記事にも書いていますので参考にしてみてください。

ここまででも随分と長文になってしまいました。

ステップ3のほかの人の目線が気になる状態の治療については、後編に書きたいと思います。