発達障害
発達障害
発達障害でよくみられる特徴(症状)
発達障害は上記の様な特徴を示します。
個人的には、「障害」と呼ぶことに抵抗があります。発達障害と呼ばれる状態は、「極端な個性」ではあり、「脳の特徴」によるものと考えているからです。人によっては、このような特徴を「性格」と表現することもあります。個性あるいは脳の特徴である以上、治療で消えてなくなることはありません。ただし、生活する上で損をする様な行動を減らして、本人の良さを生かす行動を増やしていく子育てをすることで、発達の特性を目立たなくすることはできます。これは、みんなに嫌われる様な性格を、子育ての中で教育して矯正していくことと何か違うのでしょうか。
ここに発達障害と呼ばれる「極端な個性」であるかどうかのポイントがあります。一般的な子育てで言われている工夫や育て方ではなかなか本人の行動が変わりにくい場合、発達障害特性が背景にある可能性が高いと考えたほうがいいでしょう。発達障害の医療で目指すのは、困った個性を矯正して消す「治癒」ではなく、目立たない状態に成長することです。
発達面に特性があるお子様は、よく「宇宙人」と表現されます。私は、言い得て妙な表現だと考えています。これまでの発達とは何かを研究して得た知見、臨床の経験から、発達の特性は「他の人と異なる感覚の感受性」・「関連を見つけやすい情報の質」が大きく関わっていると考えています。同じ経験をして同じ情報を受け取っても解釈が他の人と違ってしまったり、同じ学習をしてもなかなか同じ理解に辿り着けなかったりするのはそのためです。
私は、発達障害の方を日本の村社会に突然放り込まれた生粋の外国人に例えることが多いです。同じ事柄を経験しても、生粋の日本人と外国人では感じ方がまったく変わります。そのため、感じた情報から判断した行動も異なってしまいます。その結果、自分達にとっては当たり前のことに対して違う解釈をしてしまう相手がいることで戸惑い、なぜわからないのかという苛立ちが、お互いに生まれるわけです。
人間は、自分の想像の及ぶ範囲にないものに、不安を感じ、教えてもなかなか伝わらない状況では相手の努力不足や能力不足と判断することで、自分の対応すべき範囲から外す行動を無意識にとってしまします。
ところが、自分の子どもがそのような宇宙人あるいは外国人の様なあり様になると、親として責任はあるもののどうしてよいかわからず、親子共に疲弊していくことになります。ここで疲弊してしまう理由は、親が子どもを理解しようとする際に、自分の感性の範疇・想像の及ぶ範疇で原因や行動を変えるための対処法を考えてしまうためです。しかし、そもそもの感性の違いとそれに起因する行動原理の違いに気づかない限り、どちらかもしくはどちらも我慢することばかりが続きます。
私たち、発達障害医療に携わる医療職は、親子間で理解するのが難しかったお互いの感性や行動原理を翻訳してお伝えする手伝いをする、通訳のようなものだと思っています。
つまり、当クリニックの発達障害医療は
が柱になります。
そのため、発達検査も保護者や支援者からの希望だけで検査をすることはしません。お子様の成長発達を支援するために必要な時であるか医療福祉教育的な観点から総合的に判断して実施します。結果についても、数値をお返しするだけでなく今後の関わり方に参考となる助言を含めた報告書をお返しします。
このような検査実施体制、報告書作成を行うために、報告書のお渡しには別途文書料をいただいており、それに同意いただいた場合にのみ心理検査を実施します。結果の数値だけのご希望にはお応えいたしかねますのでご了承ください。
治療は、医師および公認心理師による関わり方への助言、内服薬による治療を行います。
内服薬による治療目的は、それによって特性がなくなることではありません。不安やイライラ、注意力散漫など、脳の中の状態が不安定ではどんなに良い助言をうけても、どんなに良い経験をするチャンスがあっても、成長に結びつかないことがしばしば見られます。そこで、内服薬で脳のコンディションを整えて、良い経験による成長を促しやすくすることが目的になります。
以下に、当クリニックで主に治療対象としている発達の特性について解説します。
対人関係での難しさ、コミュニケーション面での難しさ、こだわりを三つの柱とする発達特性です。三つの特徴の程度の組み合わせはバリエーションに富んでおり、それぞれの特徴の中でもどのような特徴の出方なのかは千差万別で、一括りに自閉スペクトラム症と言っても、多種多様なタイプの方がいます。
言葉が遅れる方もいますし、ある時期を境に急に言葉が成長する方もいます。空気を読むことが大人になっても下手な方もいますし、状況証拠である程度推測できる様に成長する方もいます。こだわりも成長と共に和らぐ方もいれば、変わらずにあるいは別のものへのこだわりへ移行して、本人と周囲の大変さが変わらない方もいます。
幼い頃は言葉の育ちが遅い、人の話を聞かない、思う通りにならないと癇癪がひどい、気持ちの切り替えが難しい、睡眠の問題、偏食、こだわりなどがあり、保護者や所属園の担任などが育てにくいと感じることがきっかけで気付かれることが多い様です。対人トラブルや勝手な行動など、周囲が困る様な元気さがないお子様の場合は、就学以降の集団生活に馴染めないことやついていけないことで気付かれることもあります。知的水準の高いお子様の場合、学生の頃は発達特性が目立たず、就労後になって自分の判断で柔軟に行動することが難しいことで気付かれる場合もあります。
発達障害は、発達できない状態ではなく、一般的な子育ての方法論では標準的な成長発達を促すことが難しい状態をさします。言い換えれば、本人にあった助言や工夫をすることで、発達することが期待できる場合が多いと考えています。当クリニックでは、本人の発達特性を知るための心理検査、心理検査結果を基にした発達を促すための関わり、発達を促す経験からしっかり学ぶための脳の状態を整える内服治療を行います。
本人は努力しようとしているにもかかわらず、脳の機能の問題で適切に集中力・注意力を維持したり切り替えたりすることが難しい状態を指します。注意力が散漫になることや、過度に集中してしまうことは自閉スペクトラム症でもみられますが、こだわりや今なにが一番大切なことなのかを把握することが難しいことでADHDの行動と同じ様に見えることがある様です。
ADHDの場合は、注意を維持しようと努力しても、刺激があると注意が逸れてしまうなど、わかっていても集中できない、切り替えができないことが判断の鍵になることが多いと考えています。
脳の中のドーパミンと呼ばれる物質の働きを整えることで症状が緩和することが知られており、内服薬による治療で効果が期待できます。一つ注意が必要なのは、自閉スペクトラム症の治療と同じく、内服薬治療でADHDの特徴が治癒してなくなるわけではないことです。脳の状態が整うことで、適切に注意の切り替えや集中の持続がしやすくなるだけで、経験で少しずつ注意を維持する力などを別途身につけていく時間を稼いでいると考えてください。
そのため、人によっては思春期の頃に内服治療を終了できることもありますが、成人になっても日常生活の困りごとを減らすために内服治療を継続することが望ましい場合もあります。
知的な発達が全般的に恒常的に遅れている状態を指します。就学前に知的発達の遅れを認めても、その後の経験や児童発達支援事業のサポートを受けて発達が追いつくこともあります。そのため、特に就学前の発達の遅れについては、知的障害とは言わず、発達遅滞と表現することもあります。全般的な知的発達の遅れではなく、一部の知的能力が伸び悩んでいる場合は、後述の学習障害が含まれます。
自閉スペクトラム症の特性をもつお子様は、その感性の独特さや興味の偏りから、物事の理解が進むのに時間がかかる場合があり、結果的に知的発達の遅れを伴う場合があります。とはいえ、自閉スペクトラム症のお子様すべてが知的発達の遅れをきたす訳ではありません。
知的障害あるいは知的発達の遅れの治療にも、短期間で治癒する魔法はありません。ものの名前など単純な知識の定着については繰り返し学習することで定着を目指すことが大切ですし、因果関係の理解のような、なんらかの気づきが必要な事柄については、イメージしやすくなる様な情報の伝え方に関わる工夫が大切になります。
こだわりなど自閉スペクトラム症の特性が理由で、気づいてほしい情報を本人が認識してくれないために理解が進みにくくなっている場合には、自閉スペクトラム症のお子様の成長を促すための工夫が合わせて必要になります。
学習障害は、全般的な知的発達の遅れが理由ではない、計算のみ、書字のみ、読字のみなど、特定の学習に関わる知的能力のみの困難さがある場合に診断されます。元々は、医学的な診断名ではなく、教育現場の中でその存在が気付かれ、研究が進んだ概念で、教育分野の方から医学領域に輸入された珍しい疾患概念です。
一般的な努力をすれば十分学習が進む場合は、学習障害とは診断されません。通常の学習でのサポート、本人の努力では解決できない学習の困難がある場合には、特殊サポートを追加することが望ましいこともあります。
例えば、読字障害では漢字の部首などの構成要素を正しく分解して視覚的に認識することが難しいために文字が読めない場合が多いのですが、明朝体や教科書体では読みづらくとも、丸ゴシック体など読字障害があるお子様でも読みやすいフォントを用いることで学習しやすくなる場合があります。書字障害では、紙に鉛筆で文字を書くのは難しくとも、PCやタブレットでキータイプしたり、フリック入力したりすることで文字入力をすれば提出物の作成などが可能となり、学習ができる環境を整えることができる場合もあります。
いずれにせよ、学習障害の支援技術や支援電子機器開発は文部科学省の研究で進められており、診断がつくお子様に対しては、教育現場からの申請があれば、支援技術を提供してもらえる様になっています。
協調運動とは、体の一部分だけをつかった動作ではなく、手と足など複数の身体箇所を連動させて動かす球技や体操、楽器演奏などが不器用な状況や、お手本を見ながら細かな手先の作業で不器用さが目立つなど、さまざまな不器用さがある状態を指します。
このような不器用さの背景には、ADHDのところでも触れたドーパミンが関わっている場合もあり、ADHDや自閉スペクトラム症、書字障害に合併することもしばしばです。本人は保護者や先生の期待に応えようとして頑張っているにもかかわらず、うまくできないことで自尊心が傷つき、引っ込み思案になったり頑張ることを恐れる様になるきっかけになる場合もあります。
治療には劇的に治癒してしまう様な魔法は、やはりありません。作業内容やお手本をなるべく細かな手順に分解し、一手順ずつゆっくり説明し体験してもらうことで少しずつでも不器用さが改善することを目指すことが必要です。場合によっては、文字通り手取り足取りで作業内容を自分の手を動かしてもらいながら経験することが望ましい場合もあります。