「不登校」を医療としてサポートするとは 前編
私の専門がお子さんの睡眠問題ということもあって、不登校状態を診療することがとても多いです。
皆さん、「不登校」にどのようなイメージがありますか?
いじめがあって学校に行けなくなった、など対人面でのトラブルや辛さをきっかけに学校に行けなくなったというイメージが多いのではないでしょうか?
対人面で辛いと感じる対象には、児童・生徒だけでなく、先生が入ることもあります。
場合によっては、家族に対しても辛さを感じてしまい、家族は純粋に心配しているのに、本人が避けてしまうということも。
当クリニックは児童精神科を標榜しているのですから、子どもの「心」を扱うのではないかと期待されると思います。
そして「心」の問題として最たるものが、対人面で辛さを抱えている状態と認識されているのではないかと思います。
私は精神分析やカウンセリングなど、心の在り方について直接介入するような手法は取り入れないようにしています。
では、何を治療対象としているのでしょう?
それは、睡眠リズム、食事のリズム、運動など日中の基本的生活習慣を整えるように小児科内科医学の範疇で身体のサポートをすることで、健康な身体を取り戻すかかわりをする、この一点のみです。
健康な精神は健康な身体に宿る、などと言いますが、私もそう思っています。
心には(身体も同じだと思いますが)自然と健康な状態に戻ろうとする力があると思っています。
心の自然回復力を最大限に引き出すための一番の介入が、身体を整えることだと考えています。
この考え方は、私が一人でたどり着いたのではなく、恩師の三池輝久先生から受け継いだものです。
脳科学研究をしたからこそ、脳や心は他人(親子であってもです)が思うようにコントロールできるものではないと痛感しています。
そして、なぜなのか本当の理由はわかりませんが、本人の心の自然回復力を信じて、身体を整えるサポートをすると対人面の辛さを含めて、徐々に回復していくことがほとんどだと思っています。
では、当クリニックでは精神科でつかうようなお薬は使わないのか?
その答えは、身体を整えるために有効であれば使います、です。
向精神薬とよばれる精神科領域で使われる薬は、それぞれ何らかの症状を減らすためのものです。
抑うつ気分を和らげる抗うつ剤、幻覚などの情報の混乱を抑える統合失調症の薬、入眠を促す睡眠導入剤、不安を和らげる抗不安薬。
これらは症状を和らげるものではありますが、薬が精神疾患の原因を改善するわけではありません。
不安もうつ気分も幻覚も、繰り返すことで固定しやすくなるものです。
同じ場所を何度もケガすると、徐々にケロイドとして残るようになり、動かすのに支障がでるようになるのと同じことが、脳や心で起きていると思ってください。
精神科疾患の症状がでると、健康的な生活を送ることが難しくなることが多いです。
なので、身体を整えるために、精神科疾患症状があればその緩和を最初におこない、身体を整えやすくして、次に内科的な治療が必要であれば行いますし、生活指導などで助言を行っていく流れになります。
また、とても大切なことですが、本人が困っていることがあり、それを解決したいので通院してもよいと思ってくれていること、これが絶対条件として必要です。
ご家族が本人さんのことでひどく心配して、なんとか相談できる医療機関を探しておられる状況を、たくさんみてきました。
私が若い時は、ご家族だけの受診であってもすこしでもご家族の力になりたくて、継続していたこともあります。
結果、本人の受診がないケースで、よい状況になったことはありませんでした。
どんなことを感じているのか、なにをのぞんでいるのか、あるいは気力を失っているのか、本人の姿が見えていないのに、周囲の人の解釈で推測することは、とても危険だと思います。
場合によっては、家族の相談に勝手に応じている医療機関に対してますます不信感を募らせ、本当に医療機関に相談した方がいい時に行かない選択をしてしまう原因をつくることにもなります。
横道にそれてしまいましたが、当クリニックの不登校状態にあるお子さんへの治療方針は、
・身体を健康にするお手伝いを通じて、社会生活を取り戻すお手伝いをする
という原則に従って行います。
中編・後編では、具体的にどんな治療をしていくのかについて紹介していきます。